二次イオン質量分析ラボラトリー

国立極地研究所 極域科学資源センター
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極地研探検2018ツアー The・年代測定

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名称未詳露岩の年代を測ろう!

大変長らくお待たせしました!
2018年8月4日(土)開催の極地研一般公開探検ツアー「The・年代測定」で、
参加者の皆さんに南極の石の年代を知るために、石の中に含まれる鉱物「ジルコン」を
測定してもらいました。その結果…

一番古い年代は、33億9600万年 でした!!

下に皆さんに測定して頂きましたジルコンの年代を発表いたします。 あなたの選んだジルコンの年代は何億年くらいでしょう?

コンコーディア図

図1:分析結果のコンコーディア図

ウランが鉛に変わる放射壊変には2つの種類があります.これはウランに重さ(質量数)の異なる235と238の2つの同位体があるからです.235Uは半減期が約7億380万年で質量数207の鉛になります(235U→207Pb).一方,238Uは半減期が約44億6800万年で質量数206の鉛になります(238U→206Pb).つまり,235Uと207Pbの比から得られる「207Pb/235U年代」と,238Uと206Pbの比から得られる「206Pb/238U年代」の2つの時計があるということになります.
横軸に207Pb/235U年代と,縦軸に206Pb/238U年代をとる図を「コンコーディア図」と呼び,図1中の青い曲線のように2つの年代が一致する線「年代一致曲線(コンコーディア曲線)」を引くことができます.
コンコーディア曲線上に重なったデータは,その位置によっておおよその年代値がわかります.また,ジルコン形成後,地質現象でUからPbに変わる放射壊変系が乱されていないことを示しています(乱されている場合,コンコーディア曲線の内側に位置します).UからPbに変わる放射壊変系が乱されていない場合,Pb同位体比(207Pb/206Pb)からも年代を得ることができます.今回のように古いジルコンの場合,U-Pb年代のように異なる元素から年代を計算するよりも,Pb同位体比から年代を計算する方が高精度です.

フィールド写真

今回の分析で得られた一番古い年代は「33億9600万年」です.西オーストラリア・ピルパラ地域の35億年前地層から最古の生物化石が発見されていますし(現在,最古の生物化石については議論が盛り上がっています),32億年前までには光合成を行って酸素を作り出す生物が現れ,海中に酸素を供給しはじめたと考えられています.
およそ26億年前から24億年前の地球では,大規模な縞状鉄鉱層が形成するイベントがあり,現在のオーストラリアや南アフリカ等の地域で,その痕跡の一部がみられます.およそ24億年前には,地球全体が氷で覆われる全球凍結(スノーボールアース)というイベントがはじまったとされます.試料を採取したナピア岩体の超高温変成作用の年代も28~24億年前に生じたと考えられています.

コンコーディアズ図説明 鉱物中のイメージ
BSE像 BSE像

走査型電子顕微鏡により撮影した測定したジルコン試料の後方散乱電子像(BSE像,上の図)とカソードルミネッセンス像(CL像,下の図).(SHRIMPの分析を行うときに最も大切なことの一つは,分析する試料をよく観察して,分析する場所を慎重に選ぶことです.今回の探検ツアーでは,ジルコン試料のBSE像,CL像(図2)に加えて,光学顕微鏡像の3種類の図をよく観察しながら,分析スポットをどこにするか,選んでいただきました.)

分析スポット 207Pb*/206Pb*年代 U濃度
ppm
(100万分の1)
Pb濃度
ppm
(100万分の1)
OH-73.1 30億6800万年 351 259
OH-87.1 24億7200万年 136 70
OH-17.1 29億900万年 569 347
OH-81.1 28億900万年 368 218
OH-57.1 31億7600万年 540 408
OH-21.1 29億1000万年 553 337
OH-7.1 24億8900万年 5652 2651
OH-77.1 31億6800万年 1043 735
OH-82.1 31億7800万年 541 450
OH-53.1 31億7900万年 413 308
OH-86.1 31億1200万年 123 86
OH-76.1 32億2500万年 859 644
OH-9.1 24億7200万年 331 163
OH-8.1 32億2100万年 104 79
OH-56.1 31億6600万年 291 207
OH-51.1 25億7700万年 1177 612
OH-71.1 24億8400万年 1283 597
OH-70.1 24億8900万年 774 363
OH-50.1 32億1200万年 1032 787
OH-10.1 24億8400万年 1468 703
OH-24.1 25億6800万年 280 144
OH-26.1 31億7700万年 382 270
OH-14.1 32億5600万年 468 394
OH-88.1 29億1100万年 426 287
OH-68.1 31億1800万年 446 322
OH-12.1 31億7100万年 604 414
OH-65.1 27億7300万年 391 217
OH-1.1 24億8200万年 1125 532
OH-11.1 31億1600万年 274 208
OH-55.1 24億7300万年 1860 871
OH-83.1 28億年 479 285
OH-47.1 32億1600万年 505 382
OH-89.1 26億4100万年 869 488
OH-80.1 30億5700万年 502 354
OH-16.1 33億9600万年 215 183
OH-67.1 28億1400万年 918 531
OH-4.1 25億3500万年 1008 492

表1 SHRIMPによるU-Pb年代測定データ.(各分析スポットの207Pb/206Pb年代値とUとPbの含有量を示しています.)