二次イオン質量分析ラボラトリー

国立極地研究所 極域科学資源センター
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機材紹介

二次イオン質量分析ラボラトリー > 機材紹介 > SHRIMP-A & SHRIMP-B説明

1.SHRIMPとは

1.1.概要

SHRIMPとは、高感度・高分解能イオンマイクロプローブ(Sensitive High-Resolution Ion Microprobe)の略称です。

SHRIMPは、1973年にオーストラリア国立大学(Australia National University: ANU)にて開発が始まった分析機器であり、試料表面に一次イオンビームを照射することで発生する二次イオンを分析する二次イオン質量分析計です。

SHRIMPは、特に一次イオンビームを細く収束させて微少な領域の分析を行うことに特化しており、『イオンマイクロプローブ』(プローブ=探針)と呼称されます。高い二次イオン検出感度(Sensitive)と高い質量および空間分解能(High-Resolution)を有し、その分析結果には世界的に高い信頼性があります。

1.2.二次イオン質量分析計(Secondary Ion Mass Spectrometer: SIMS)

二次イオン質量分析計とは、真空中の試料表面にイオンビーム(一次イオン)照射することによってスパッタ現象を起こし、試料表面の構成原子をイオン(二次イオン)として放出させて質量分析する、質量分析計の一種です。そのため,試料に化学的な処理(試料を溶かして測定対象の元素をカラム分離する等)を施す必要がなく、固体のまま質量分析することが可能です。

質量分析法・・・電荷をもった粒子(荷電粒子、つまり分子やイオン)の質量電荷比および質量数を求める分析手法。荷電粒子は、電磁場中ではその粒子のもつ電荷や質量に応じた動き方をする。その性質を利用して、電磁場の中で荷電粒子を飛行させて、その軌道から質量数を決定する。有機化学や生化学分野など様々な分野で広く応用されている。

1.3.SHRIMPの仕組み

シングルコレクタ型SHRIMP-IIeの模式図

※シングルコレクタ型SHRIMP-IIeの模式図

極地研SHRIMPラボにはシングルコレクタ型SHRIMP-IIeとマルチコレクタ型SHRIMP-IIe/AMCの合計2台のSHRIMPが導入されています。SHRIMPはイオンの飛行距離が約7m、総重量12t以上の大型のシステムになっています。本体は大きく分けて、一次イオン系、予備試料室、試料チャンバー、静電場アナライザー、マグネット部、検出部の6つのパートから構成されます。

【一次イオン系(Primary Column)】

試料中の原子をイオン化するための一次イオンビームを生成・調整するパートです。イオン源(ホロカソード型デュオプラズマトロンやCsイオン源)で生成された一次イオンを約1万Vの電圧で加速し、イオン光学レンズや偏向器を用いて調整し、試料表面に照射します。SHRIMPでは、一次イオンの収束にケイラー光学系(Köhler illumination)を導入しており、5〜30μm径の均質な一次イオンビームの形成を可能としています。

【予備試料室(Sample Lock)】

試料チャンバーは、およそ10-8 torrの高真空に保たれており、試料を試料チャンバーに導入する際には、予備試料室において予備排気を行う必要があります。試料はホイストによって自動で試料チャンバー内のステージへと移動させられます。

【試料チャンバー(Source Chamber)】

チャンバー

試料ステージに導入された試料に45°の角度で一次イオンを照射し、90°の角度で二次イオンを引き出します。

試料表面から発生した二次イオンは、イオン光学レンズやスリット等により調整されて、静電場アナライザーに導かれます。

試料表面は、CCDカメラおよび反射鏡によって観察することが可能であり、ビーム照射位置を正確に決定することが可能です。

【静電場アナライザー(Electrostatic Analyzer)】

試料チャンバーから出た二次イオンが次に通過するパートです。試料から放出される二次イオンはエネルギー分布に広がりをもつので、そのエネルギーを一定に揃える役割を果たします。高精度な分析を達成するために必要なプロセスとなります。

【マグネット部(Magnet)】

静電場アナライザーを通過し、エネルギー分布が一定になったイオンが次に通過するパートです。曲率半径1m、角度72.5°の扇形をした電磁石によって磁場を形成し、二次イオンを質量に応じて振り分けます。このマグネットの曲率半径1mは、検出器の100μm幅のスリットで、Pb同位体への同重体干渉を除外するために必要な大きさであり、高精度なU-Pb年代値を得るために不可欠なものです。

【検出部(Collector)】

マグネット部を通過し、目的の質量数に揃えられた二次イオンが計数されるパートです。シングルコレクタ型の場合、コレクタースリット、レタデーションレンズ、検出器(エレクトロンマルチプライヤーまたはファラデーカップ)から構成されます。検出器の位置は二次イオンビームの焦点位置に合わせて、前後に動かすことが可能です。また、Advanced Multi-Collector(AMC)は、5つの検出器の導入が可能です。

1.4.SHRIMP開発の歴史

SHRIMPの開発は、今から約40年前、オーストラリア国立大学にてBill Compston教授を中心として始まりました。設計を担当したSteve Clement博士によって、大阪大学の松田久教授の提案した二重収束型デザインが取り入れられ、1980年に一号機(SHRIMP-I)が完成しました。そして1992年にはオーストラリア国立大学およびオーストラリアサイエンティフィクインスツルメンツ(ASI)によって製品としての開発が行われ、翌1993年には,オーストラリアのカーティン工科大学(現カーティン大学)に、1台目の製品版SHRIMP(SHRIMP-II)が導入されました。その3年後、広島大学に、日本国内では初めてのSHRIMPが導入されることになります。国立極地研究所への導入はさらにその3年後の1999年になります。

1973年
コンプストン教授を中心として、オーストラリア国立大学にてSHRIMPの開発が始まる
1974年
クレメント博士を招聘
1975年
設計開始 クレメント博士により”SHRIMP”と命名される
松田教授の二重収束型質量分析計の理論の応用
静電場アナライザー・四重極レンズ・磁場の組み合せ理論
1980年
完成(SHRIMP-I)
方鉛鉱のPb、S同位体分析(Coles et al.report RSES)
1983年
西オーストラリア・Narryer山地の始生代の変成岩から冥王代のジルコンを報告(Froude et al. Nature)
1992年
SHRIMP-IIの開発
1993年
カーティン工科大学(オーストラリア)がSHRIMP-II導入
1996年
広島大学がSHRIMP-II導入(国内1台目)
1999年
国立極地研究所がSHRIMP-II導入
2013年
産業技術総合研究所がSHRIMP-II/AMC導入
国立極地研究所がSHRIMP-II/AMC導入

※SHRIMPの開発および発展の歴史

2.分析

2.1.概要

陽イオン化および陰イオン化しやすい元素の周期表

SIMSは真空中に導入可能な試料(鉱物・化石等の固体試料)であれば、数多くの元素・同位体についての分析が可能です。

極地研SHRIMPラボラトリーでは現在2台のSHRIMPを運用しています。それぞれのSHRIMPにて、その特長を活かした分析を行っています。

2.2.試料調整

ノーマルマウント、メガマウント

SIMSでは、薄片や樹脂試料に対して分析を行うことが可能であり、それぞれの分析に適した試料作成を行う必要があります。

極地研SHRIMPラボでは主に大きさの異なる2種類のエポキシ樹脂マウント(ノーマルマウント、メガマウント)を作成します。

また、分析前には、光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡(SEM)にて表面状態や組成像、カソードルミネッセンス(CL)像の観察を行います。最終的に、分析時のチャージアップ防止のための金蒸着を行います。

【ノーマルマウント】

直径約25mmのエポキシ樹脂製のディスク。分析精度向上のため、特にU-Pb年代測定においては中心7~10mmの円内にのみ試料を配置します。

【メガマウント】

直径約35mmのエポキシ樹脂製のディスク。ノーマルマウントと比較して大きなサイズまたは多量の試料を埋包することが可能です。薄片の埋包も可能です。主に安定同位体分析に使用します。

2.3.アプリケーション

シングルコレクタ型SHRIMPのアプリケーションのひとつに、U-Th-Pb年代測定があります。U-Th-Pb年代測定はU(またはTh)の放射壊変を利用した放射年代測定法の一種で、U、Th、Pbの同位体を測定することで年代値を算出します。U-Th-Pb壊変系は、他の壊変系と比較しても、年代測定に必要な半減期(壊変定数)が高精度に決定されており、また同一の元素で複数の系をもち、コンコーディア図による年代値の検証が可能であることから、強力な年代決定手法の一つです。測定の対象として、放射性元素であるUやThに富み、その娘核種のPbに乏しい鉱物が適しています。そのため、ジルコン、チタン石、モナズ石などが利用されます。また、U、Th、Pb以外の微量元素の存在度や同位体組成を求める分析も行っています。例として、ジルコン、チタン石、燐灰石、ざくろ石等に含まれる希土類元素、Hf、Ti等の測定を行っています。

マルチコレクタ型SHRIMPでは、軽元素の安定同位体の組成を中心として分析を行っています。極地研のSHRIMP-IIe/AMCには、Csイオン源および電子銃が導入されています。応用例としては、ケイ酸塩鉱物やリン酸塩鉱物、炭酸塩鉱物の酸素同位体、また、黄鉄鉱等の硫黄同位体の分析を行っています。